小柿の村に感応寺山があって、昔は、感応寺という大きなお寺を中心に、たくさんの宿坊がありました。
 その感応寺には、金の鶏、金の茶釜や金の蓮の花などの宝物が、大事に大事にされておったそうな。
 今から四、五百年ほど前、日本国中、あちらこちらで戦をしていました。
 そのころ、丹波、八上城の城主、波多野秀治は、天下をねらう織田信長と戦っていました。信長の家来・明智光秀が大将となって、たくさんの軍勢を引きつれ、三田から丹波へと攻めて来ました。 その時、三田の小柿は、波多野秀治の領地でした。光秀の軍勢は、三田の村や寺を焼きはらい、感応寺に攻めて来ました。
 寺にたてこもった侍や村人たちは、敵とよく戦い、よく防ぎましたが、しだいに負け戦となり、寺は火をつけられ燃え出しました。
村人1「たいへんだ! たいへんだ!」
坊さん1「本堂が燃える!」
坊さん2「 仏様が焼ける!早よう外へ運び出せ!」
村人2「おーい、早よう来てくれ!」
村人3 「寺の宝物を敵に渡してたまるか!早よう持って出ぇ!」

 みんなは手分けして、仏様や金の鶏、金の茶釜や金の蓮の花などを池や井戸、泉水の中へ投げ入れました。

 戦さは終わり、村は平和なくらしにもどりました。寺は山のふもとに、新しく建てられ、仏様や金の茶釜や金の蓮の花はみつかりましたが、どうしたことか、大事にしていた金の鶏だけ見つかりません。
坊さん3「金の鶏はまだか、いったいどないしたんや!」
村人4「みんな、よう探したか?」
村人5「へえ、へえ、よう探したんや。」
村人6「池の樋をぬいて泥さらえまでしたんや、けんど、どこにもあらへん!」
坊さん4「えらいこっちゃ。敵に見つかって持っていかれたんやろう か?」
村人7「えらいこっちゃ。 えらいこっちゃ。 」
坊さん5「ほんまにえらいこっちゃなあ!」

坊さんも、村人たちも残念に思い、なげき悲しみました。

 さて、それからながーい年月がたってからのことです。
 この村に、その日ぐらしの母と息子が住んでいました。冬のある日、若者は、感応寺山の奥山へ山仕事に行き、せっせと仕事をしましたが、あまり薪や柴はできませんでした。若者は、昼になって、母の作ってくれた稗(ひえ)弁当を食べていました。すると、どこからか、
「コケコッコー。」 と、一声、鶏の鳴き声がしたように思いました。
若者「はてな?こんな山奥で鶏の鳴き声、おかしいなあー。」
立ち上がってあたりを見まわしましたが、 それらしいものは見あたりません。
「コケコッコー。」
今度は、前よりも一段と大きな声で、はっきりと、鶏の鳴き声がしました。
 若者は、ふしぎに思い、こわごわ鳴き声がした方へ近づいていきました。そこには、大きな池がありました。おそるおそる池を見ていると、池のまん中で泡が、
「ブクブクー、 ブクブクー、」 と、音をたてて上がって来たかと思うと、
「ザワザワー」 と、大きな波がたち、やがてうず巻きのように、ぐるぐると水が回り始めました。若者はそのうずに引きこまれそうになりました。
若者「わあ!こわ。こりゃ何かおそろしいことがおこるかも知れんぞ!」
若者は、一目散に仕事場へ逃げもどりました。
 池で鶏の鳴き声を聞き、ふしぎなことを見た若者はこわくなり、仕事をやめてやまをおりようとしましたが、我が家で帰りを待つ母のことを思うと、そういうわけにはいきません。昼からも薪割りにかかりました。
 ところが、どうしたことでしょう。からだ中に力がみなぎり、おもしろいように、薪は、どんどんとできていきました。
 若者は、さっそく荷車に積み込んで、喜び勇んで町へ売りに行きました。 町に着くなり、威勢のよい声で、
若者「薪!薪はいらんか!」「感応寺山の薪!よく燃える薪!」「薪はいらんか!」
町の人1「おーい薪おくれ」
町の人2「感応寺山の薪か、わしにもおくれ」
町の人3「こりゃよい薪や、柴はないのか、柴もほしい。」
町の人4「今度来る時、柴も持って来て。次は早よう来ておくれ。」

 いつもはあまり売れず、売れ残りがあるのに、今日は何とまたたく間に売り切れ、柴の注文までありました。
 売った代金をふところに、空車を引いて帰ろうとしましたが、この寒空で畑仕事をしている母のことを思い浮かべ、 「そうや、おっ母さん、まだ海の魚を食べたことがない、と、言っとた。そうや、そうや」 と、魚やまんじゅうなどを買い、いそいそと、我が家へと帰って来ました。

 その夜、若者は、豪華な夕食を母と二人で楽しく食べながら、山での出来事や、薪が飛ぶように売れた町での様子などを話しました。母は、この話を聞いて思い出したように語りかけました。
母「わしがなあ、ここへ嫁いで来たころ、お前のひいじいさんから、こんな話を聞いたことがあるんや。むかしな、戦で感応寺が焼けた時、仏様や宝物であった金の鶏、金の茶釜や金の蓮の花を、井戸や池などに投げ入れたんやて。それから何年かたって探したんやが、今も金の鶏だけが見つからへんそうな」
若者「ひょっとしたらあの鶏の鳴き声は、その時の金の鶏やろうか?」
母「お前の見た泡やうず巻きは、池に住む主が暴れたんとちがうか?」
若者「沈んでいた金の鶏がびっくりして、そいで鳴いたんやろうか?」

母と若者は、夜の更けるのも忘れて話をしたのでした。

 それから後も、感応寺山で鶏の声を聞いた日に限って、仕事は面白い程はかどり、薪や柴は、町で引っ張りだこのようによく売れました。 こんなことが何年も続きました。
 やがて、感応寺山の池の噂が広がり、村中の評判になりました。
村人1「感応寺の宝物やった金の鶏が、どうやら裏山のいけにあるらしい。」
村人2「見つからなんだというのは、それやろか?」
村人3「池の水神さんの竜にのって、水面に出てきて鳴くそうやで?」
村人4「池の底で竜神さんに守られているんやて。」 村人5「それやったら、さわられへんや。」
村人6「さわったら罰があたるで。」
村人7「でもなあ、その金の鶏の鳴き声を聞いた人は、幸せがやってくるんやて。」


 こうして、金の鶏は、池の主の竜に守られて住んでいる、と思われるようになりました。
 そして、誰言うこともなく、この池を「竜神池」と、呼ぶようになりました。
 せっせと百姓と、山仕事に精を出した若者は、やがて家も新しく建てかえ、働き者で気立てのよいお嫁さんをもらい、二人で年老いた母親を大事にし、明るく楽しく幸せにくらしたそうな。(おわり)

 
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